DSC_0919田中綾

1970年生まれ、札幌市出身。
北海道大学卒業。
大学卒業後、フリーライターを経て歌人の道へ。
1991年に第8回早稲田文学新人賞佳作、
1995年に第13回現代短歌評論賞、
2002年に道銀芸術文化奨励賞を受賞。
2008年より北海学園大学人文学部准教授(2014年より教授)。
北海道新聞日曜文芸欄にて「書棚から歌を」を連載(2009年~)。
著書に「権力と抒情詩」(ながらみ書房)、「書棚から歌を」(深夜叢書社)など。

 

 

同じ目標に向かいながら、別々な道を歩む二人

北海学園大学教授で歌人、そして文芸評論家として講義、講演で活躍する田中綾。
田中先生、綾先生と呼ばれる方に失礼かもしれないが、
溝手はかれこれ20数年、綾ちゃんと呼んでいる。

綾ちゃんと初めて会ったのは20歳のころ。
当時無名の劇団を主宰していた溝手は、劇団員の人数よりも少ない観客の演劇公演を行っていた。
その時、客として見に来てくれたのが綾ちゃんだった。
当時綾ちゃんは大学生。
溝手は芝居をしながらのフリーター。

その後、綾ちゃんは大学を卒業して就職し、
溝手は相変わらず先の見えない演劇&フリーター生活をしていた。

そんな時、綾ちゃんから一通の手紙をもらう。
「仕事を辞めてモノカキになろうと思う」

溝手も綾ちゃんも24歳。
周りは次々社会人となり、大人の階段を一歩一歩登っている。
そんな頃、演劇をやっているフリーターと仕事を辞めたモノカキ希望者の二人は、シナリオセンターに通う。

綾ちゃんは、ラジオCMコンクールで入賞し、その縁で放送作家デビュー。
溝手はシナリオコンクールで賞を受賞。

ところがこの後、二人は全く別な道を歩きはじめる。
綾ちゃんは歌人の道へ進み、溝手はラジオパーソナリティに。

まぁそれからあんなことやこんなこととさまざまな出来事があるのだが書いているとキリがないのでここまでとする。

2人が出会って20数年。立場や環境は変わったが、今でも年に1.2回は会って酒を飲んだり酒を飲んだり酒を飲んだりしているw

お互いの仕事やプライベートの話はたっぷり話しているし聞いてはいるが、
綾ちゃんの読む本、好きな作家などの事は聞いたことが無かった。

 

「つながり読書」

溝手に是非読んで欲しい本を紹介してくれ!
と頼んだところ、綾ちゃんはこの一冊を選んでくれました。

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私の戦旅歌 伊藤桂一(講談社文芸文庫)

ブックガイドで毎週本を紹介していまして、溝手さんに読んで欲しい本がたくさんあるのですが
是非読んで欲しいと思ったのが「私の戦旅歌」という本です。
この本は、昭和14年に騎兵隊として中国山西省に出動した作者の手記です。
作者の伊藤さんは、体育会系ではなく文科系の人。
だから腕力や体力があるわけではない。
そんな作者は戦争に行く時に「僕は戦争に行くわけじゃない。歌を作りに行くんだ」と言い聞かせて、
戦旅中に感じたことを短歌にしたためるんです。
戦いの途中、仲間が死んだり、一緒に共にした軍馬との別れ。
その期間は6年10ヵ月。
その頃作者は20歳くらい。
恋人も欲しい年頃ですよね。恋人が欲しかったのに、横にいるのは銃。
でもその銃に温かいものを感じると、
恋人とイチャイチャしたい20歳の夏に戦争に向かう。

我々の20歳と伊藤さん(作者)の20歳。それとこれから大人になる子供たちの20歳を考えると戦争について考えてほしい。
そんな一冊です。


溝手は戦争は知らないし、
テレビや映画、小説で出てくる戦争の世界は
あってはならないものと感じはするものの、正直別世界。
自分とは関係ない話と考えてしまっている。
だけどもし自分があと40年早く生まれていたら、
または自分が20歳の頃に戦争があったら。
当たり前のように戦争に駆り出されていたわけだ。
「私の戦旅歌」は、作者が戦旅中に詠んだ短歌とその時の回想文で綴られている。
仲間の一人が死んだ時、その仲間は死に際に恋人の名前を何度も呼んだそうだ。
それに対し作者や仲間は
「死ぬ時に呼べる女の名があってよかったよな。おれにはないね。死ねば枯れ木でカササギが鳴いてくれるだけか」
などと言い合う。
20代といえば遊びたい盛り。好きな人の一人や二人いたって不思議ではないのに、そんなことさえ許されない環境。

若ければ銃を抱きて寝る時も銃にあたたかきものを感ぜり

戦争の武器である銃に温もりを求めるしかない立場。
想像もできないし、そんなこと二度と起こってはいけない。

ひとつひとつの歌に対して、帰国後作者が戦旅手記としてその時の状況を記している。
それを書いているのは作家の伊藤さんなので、その手記は読者のために書かれた文章である。
だけどその手記と共に記された短歌は、読者のためというより自分のために書いた歌が多いと思う。

だからこそ戦争の殺伐感や、いつ死んでもいいという覚悟。
その逆になぜその状況でこの歌を詠めるんだ?というものも出てくる。

20歳の自分は、やりたいんだかやりたくないんだかわからない演劇をしながらのフリーターだった。
あの頃もし戦争に行けと言われたらどうしたんだろう?
少なくても戦旅の途中で、戯曲を書くような余裕は自分にはないだろうなと思う。


book

の戦旅歌 [ 伊藤桂一 ]

価格:1,404円


二人で飲みに行くと昔話や世間話ももちろんするが
未来の話をすることが多い。
「こんなことできたらな」
「溝手さんこんなことしないの?」
僕たち二人は永遠も半ばを過ぎた。
だけどだからって未来を考えちゃいけないわけじゃない。
「昨日の自分より明日の自分の方が一歩先に進んでいないと嫌」
と語る綾ちゃん。
人生は半ばは過ぎたけど、まだまだ上を登っていきたい。
今回会って、あらためてそう思いました。

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田中綾さんの最新著作「書棚から歌を」

書棚から歌を [ 田中綾 ]

価格:1,512円

北海道新聞日曜文芸欄で連載中の同名コラムの書籍化。
今回紹介した「私の戦旅歌」など153作品のレビューを掲載。