コミュニティラジオの頃

(5)ラジオのオーディションを受ける春

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コミュニティラジオの頃 はじめに

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子どもの頃から聞いていたラジオ局のパーソナリティオーディションで最終選考に残ったものの全く爪痕すら残せず惨敗した溝手。
25歳までのタイムリミットが近づくなか、季節は春になった。

どうしよう?

インターネットもスマホも存在しないこの頃、情報は限られる。
そんな中、もうひとつのAM局で夜放送のアシスタントを募集していることを知る。

これはチャンスだ!
ベストテン北海道よりアタックヤングの方が聞いてたもんね、
と掌返し気分で、そのアシスタント募集に応募することにした。

なんでも募集するのは夜9時から放送中の生放送のアシスタント。
メインDJは、女性の局アナだそーだ。

その女子アナの名前を知ってはいたが聞いたことはなかった。
その日の夜、初めて聞いてみた。

番組はリクエスト&トーク番組。
この女子アナが結構人気があるよーだ。
聞いてる限りワンマンDJで成り立っている番組。
ここにアシスタントがいるのか??
とも思ったが、人気番組のアシスタントってことはチャンスもあるんじゃね?
番組ではアシスタント募集のことも話していた。

一緒に番組を盛り上げてください!とのこと。
盛り上げましょー。

申し込みは電話でとのことだったので
電話する。

そこで一つ目の壁が・・・。
「ラジオネームは?」
「いえ、あの本名で」
「これまで番組で使用していたラジオネームを教えてください」
「いえ、番組に電話したことないです」
「そうですかぁ」
あら?番組に電話やハガキを送ったことがない人はアシスタントになれないのか?
嫌な予感はしたが、そんなの関係ないだろう。
翌日局のスタッフが電話があり
翌週月曜日の生放送に来てくださいとのこと。

「それがオーディションなんですか?」
「オーディション?はい、そーいうことになります」
「それまで何か用意したり準備することはありますか?」
「いえ、来ていただければ」

はぁ・・・。
来ていただければ・・・
指定された時間は生放送の十分前。
遅れそうなときは事前に連絡ください。
ユルイぞ。
履歴書も自己PR分も同録テープもいらないのか?
そんなんでいいのか???
時間通り局に到着すると、なんちゃらスタジオへ案内される。

そこには放送スタジオがあり、そこに隣接するように三十名ほど収容できるスペースがありそこに促される。
公開放送などに使われるスペースだそうだ。
公開放送??

「時刻は九時になりました。みなさんこんばんはー」
たいした説明のないまま、ラジオの生放送が始まる。
「今日はアシスタント募集に応募いただいた三十名の皆様がスタジオに来ていただいてます。こんばんはー」
こんばんはー?
私の横や前や後ろに座る人たちは、全員アシスタント希望の応募者だったのだ。
だけど・・・なんだ、この緊張感のなさは。
雪まつりのオーディションの時は、みんなそれなりに緊張した面持ちをしてたぞ。

ここにいる人たちも緊張はしている。
だけどその緊張は、オーディションを受けている緊張ではない。
目の前で喋る局アナDJへ向けてのものだ。
CMや音楽が流れている間、オフマイク中にDJは我々の方を向きトークをする。

「あっ、私の団扇作ってくれたんですね」
アイドル歌手のごとく、DJの名前を入れた団扇を持つ男。
「僕、ラジオネーム・トーマスパンダです」
「あぁ。あなたがトーマスパンダさん初めまして」
ラジオネームを聞き「おぉ」と響き渡る声。
「私は、のぶりんです」
「あなたがのぶりんですか?」
「僕は誕生日の日にスヌーピーの時計を送りました」
「あぁ、その放送聞いた」
なんだ???
オーディションと聞いていた会場は、
間違いなくDJとファンのコミュニケーションの場と化していた。

「あなたラジオネームは?」
一言も話さない私に気を使った隣の男が私に話しかける。
「いや、私は特に・・・」
そう答えると
「僕も二回しか番組でハガキ読まれてないので恥ずかして言いにくかったんです」
と私に仲間意識を向ける。
すみません、ハガキも出したことないし、DJのフルネームさっき知りました。

そんな感じで二時間の生放送を終え、最後に一人一人からPRを、、、とのことだったが、
「いつも聞いてます、頑張ってください」
とか
「◎月にやった▲▲のような企画をまたやってください」
といった番組の感想ばかり。
「では次の方」
私の番。
「ええと、ラジオ番組のアシスタントを募集しているというのを知り今回ご連絡させていただきました。正直に言いますと、番組を一度も聞いたことがありませんで・・・」
サァァァッ・・・
空気が変わるとは、こういう時のことを言うのだろう。
みな、一言も発していないがこう思っているようだ。
「なんでラジオも聞いてないのにここに来たんだ」
こっちだって言いたいよ。
「アシスタント募集じゃなくてファンミーティングなら、先に教えてくれよ」
・・・と。

その後週替わりだか日替わりだかは忘れたけど、リスナーが番組アシスタントを交互に担当した様子だが、
私のところには当然ながら声はかからなかった。

それから15年ほどして、実はこの局でも番組の原稿を書く仕事をしていた。
あの時の人気DJさんはその後フリーになり、東京へ。
いまウイキペディア見てたが、最近は活動していないご様子だ。

何度か番組収録にも立ち会わせていただいたが、あの時の話はもちろん誰にも話していない。