コミュニティラジオの頃

(4)ラジオのオーディションを受ける冬(後編)

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最終選考に残り、気合満々で挑んだスタジオでのテープ審査で駄々滑り。
こりゃ巻き返さないと!
雪まつりでの公開審査会場に溝手が持ってきたものは、、
腹話術の人形。


その前の年、劇団の舞台で使用した腹話術の人形。
これを持参しオーディションに挑んだのである。
これを読んだ時点で、サブイだろ、と言うのはわかるだろうが、
何とかしないと、と考えていた溝手には
最良の手と思い込んでいた。


オーディションの順番は確か後半。
1人1分のPRタイムと審査員からの質問。
これが残されたチャンス。
他の人は名前や特技、意気込みを語る。
まっ、当たり前中の当たり前。
PRタイムでPRせずに何するの?
1人をのぞいてね。


「どうも溝手です」
「ケンちゃんです」
溝手はPRタイムを使い腹話術のケンちゃんとトークをする。
ん?
時間いっぱい腹話術をして満足する24歳。
審査員からの質問は、腹話術のけんちゃんについて。
僕の大親友なので連れてきました。寝るときも肩見離さず大親友です。
そんなこと言われたら審査員も苦笑するしかない。


「以上溝手孝司さんでした」


司会が言い、溝手は挨拶をする。
そして、今まで大事に抱えていた腹話術のケンちゃんを
雪のステージに叩きつけ、そのままステージを後にした。

書きながら頭悪いな、26年前の俺と思うが、
当時はこれでインパクトを残せると思い込んだ。


次の出場者はPRタイムが始まってるのに、
私が壇上に残したケンちゃんを舞台袖まで持ってきてくれる。
「人形、忘れてますよ」
「あっ、すみません」

結果は書くまでもなく。

初めてのオーディションは、無残に散ったのでありました。

追伸
それから8年の歳月が過ぎ、
この局で放送作家の仕事をすることになった。
一年続いた番組だったが、メインのパーソナリティが夏休みの際、
局のベテランアナウンサーがピンチヒッターで私の書いた原稿を読んでくれた。


「はじめまして」
と言われたが
ホントははじめましてではない。
そのアナウンサーは、
8年前、腹話術で駄々滑り
ケンちゃんを叩き捨てた姿を呆れながら
審査員席で見ていたのだ。


「はじめまして」


溝手も答える。
そう、きっと、初めて会うのだ。
あの雪まつりでの出来事は、夢に違いない。

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