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ラジオ時代の溝手のファン層は、6:4で男性の方が多かったような気がする。
女性は学生が多く、男性は同世代や年上も多かったな。
そんな男性ファンの一人。
当時の溝手より少し年下の男性がいた。
公開放送終了後、数人のファンと会話することがあった。
「みぞっちの番組面白いです」
「●●(番組名)にハガキ出して読まれたんですよ」
という会話の中で
その男性は
「溝手さんの声が好きです」
と。
まぁ、それはそれでいいのですが、その言い方がなんか・・・だったわけですよ。
それからもその彼は公開放送を見に来る。
他の人は番組を聞きながらうなずいたり笑ったりと楽しんでいるのに、
その彼はずっと溝手を見つめるわけですよ。
その目線が結構強烈でね。
そして放送の途中で突然立ち上がる。放送ブースはガラス張りでガラスより先には進めないのだが、ほかのリスナーを無視してガラスの前に立ち尽くし、ずっと私を見ているのです。
ラジオは公開放送システムをとっているとはいえ、リスナーのほとんどはラジオで聞いているわけで、この状況を見ているのは公開放送に来ているリスナーだけ。
だからラジオではこのことには触れず普通に喋っているのだが、
その彼は瞬きもせずにずっと私を見つめているわけです。
どうしろっていうの?どうしたらいいの?
そんな状態が10分くらい続き、突然背を向け彼は帰っていった。
なんだったんだろう???
その日の夜、局に一本の電話が来た。
電話の主は、その彼。
「溝手さんに伝えてほしいことがありまして」
その彼は「溝手さんの声」が好きなはずなのに電話の向こうの声が溝手だと気づいていない。
「はい、何でしょうか」
溝手はイチスタッフを演じる。
「今日放送を見に行って溝手さんを見ているといてもたってもいられなくなって、つい立ち上がって近くに行ってしまいました」
「はい」
「いてもたってもいられなくなって、溝手さんの前に立ってしまいました」
「はい・・・そのようにお伝えしたらよろしいですか?」
「はい」
「お名前教えていただけますか?」
「それは言えません」
そう言ってその男は電話を切った。
その1週間後、深夜ラジオのパーソナリティ募集の履歴書の中に、その男の写真を見つけた。
志望理由が「溝手さんが好きだから」
書類審査で落ちたので、会わずに済んでホッとしたものだ。
さらにその何日か後、局の隣の中華料理店でその彼に会う。
こっちは一人で麻婆豆腐丼を食べていたのだが、そこにその彼が2人の女性と入店。しかも二人とも可愛いと来たもんだ。
彼はこちらに気づかず二人の女性と、溝手とは離れた席で食事。
食べ終えて会計をしている時、彼が近づいてきた(やっぱ気づいてたか)。
「溝手さん」
「あぁ、びっくりした。来てたんだ(わざとらしい、溝手)」
「パーソナリティ募集応募したんですけど落ちちゃいました」
「あぁ、そうなんだ(わざとらしい、溝手2)」
そんな普通の会話をして別れた。
その何日か後、また局にその彼から電話が来た。
「溝手さんですよね」
その時は声が溝手と気づいた様子。
「あぁ、どうもです」
「溝手さんこの前(中華料理店の名前)にいましたよね?」
「うん、いましたも何も話ししたじゃん」
「溝手さんなんでお店ではおとなしいんですか?」
「え?」
「だっていつもラジオではあんなに喋るのにお店じゃ一言もしゃべってなかったじゃないですか」
いやいや、一人で店に来て「さぁ、麻婆豆腐を口に入れる。このピリ辛が何とも言えずに美味しい。さぁ、この辛さが口に残っているタイミングでご飯をかっ食らう・・・」なんて喋ってたら変人と思われるでしょうが。
「ラジオ頑張ってくださいね」
最後はごく普通の一言を残し彼の電話は切れた。
それから局に姿を見せなくなったし、電話もかけてこなくなったし、中華料理店で会うこともなくなった。
いったい何だったんだろうな。
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