コミュニティラジオの頃

(78)ラジオの向こうにいるあなたへ

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コミュニティラジオの頃 はじめに

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当時夜のラジオ番組を聞く年齢層は圧倒的に中高生が多かった。

背伸びした小学生や、同世代の20代、

時にはそれ以上の年齢の方からのメッセージが届くこともあったが、

中学生、高校生が一番コアなリスナー層だったと思う。

受験、恋、反抗期、友達、学校、反発、喧嘩、将来への不安、現状の不満などなど

10代の若者は毎日何かに悩み何かに落ち込み

何かにときめき何かに絶望を感じる。

あの頃

「これ以上の恋には出会えない」

と失恋で落ち込む17歳に

「これ以上の恋にこれから何回だって出会えるさ」

と言ったところで耳には届かないし、

「俺の人生なんかクソみたいなものさ」

と学校でいじめられている高校生に

「時間が解決してくれる悩みだってあるんだぜ」

と話したところで、今が絶望の高校生には届かない。

アホ番組やバカ番組やマヌケ番組を多数抱えていた溝手ではあるが、

リスナーからの悩み相談を読んだり語ったりみたいなこともずいぶんしていた。

今のようにスマホもSNSもない時代。

オンラインゲームも携帯電話もない学生が、

一人ぼっちの部屋でラジオを聞いてるのだ。

人気ドラマや音楽番組がテレビでやっているのに

有名アーティストやお笑い芸人の全国放送のラジオ番組もあるのに

漫画だって雑誌だって小説だって一人の部屋なら読み放題なのに

地方でしか聞こえない小さなラジオ局の溝手の番組を聞いてくれる人がいた。

「昨日飲みに行ったら酔っぱらってさぁ・・・」

と失敗談を話す溝手には

「みぞっちバカだな」と笑ってくれ、

ハガキのコーナーでは

リスナーのバカ話を読みながら大笑いをする溝手と共に笑ってくれ、

コントがあったりロケがあったり

あぁだこぉだと進む番組の中で

たまに、、、そう。

予告も無しに真面目なことを話す溝手がいる。

「今日は恋愛の相談が来ましたので読みます」

「匿名希望さんからのお葉書。みぞっち、学校楽しくないよ」

「まもなく受験ですが不安で不安で…」

リスナーが一人の部屋でじっとラジオを聞いているのと同じで、

溝手も一人のスタジオでずっと話しているのさ。

ミキサーも自分、DJも自分。

一人ぼっちのスタジオでずっと喋っていたよ。

外が真っ暗で喋っている目の前のガラスには

反射して自分の顔が映る。

そいつに向かって喋ってやる。

「学校何てさ・・・」

「恋はね・・・」

「この悩みに関して言うと・・・」

暗くて反射してボケて見えるから

ガラスに映る溝手は、

この放送を聞いている高校生や中学生や

恋に悩んでいる女の子や受験がストレスになっている男の子や

普段は明るいのに本当は寂しがり屋や、

みんなにいい顔するのが疲れた子や

そいつらの顔がどんどん映るのだ。

がんばれ

負けるな

というのは簡単だ。

こうしなさい

とアドバイスするのも

これはダメだよ

と否定するのも簡単だ。

簡単な方に向けて話しているようで

難しい方に進んでしまったり

ハガキを読んでメッセージを送っているつもりが

どんどん頭の中がこんがらがっていく自分がいる。

何を言いたいんだ?

何を伝えたかったんだ?

目の前のガラスに映っているのは・・・自分だ。

でも・・・今じゃない。高校生の自分がいる。

「うるせぇよ。大人が何を偉そうに語っても高校生の俺の気持ちなんてわからないよ」

そう、高校生の俺が言ってるように見える。

そうさ、わからないよ、本当は。

だってもう20代。

四捨五入したら30だぜ。

でもわからないなりに、、、もがく・・・

もがきながら今一番伝えたい言葉を話す。

たくさん「うるせぇや」って思われても

いっぱい「わかっちゃいねぇや」って思われても、

たった一人でも

ほんのワンフレーズでも

俺の言った言葉で元気をもらったと思ってくれる人がいるなら。

喋るよ。

喋ってやるさ。

だから聞きやがれ。

そうやって5年間、ラジオをしてました。

当時の道新の番組コラム。この似顔絵、全然似てねぇよなぁ・・・

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