その辺のバラッド

○○さんに先を越された男

もう何年も前の話しだが、

ある飲み会でそれほど面識のない人が隣に座っていた。

最初は名刺交換したりお互いの仕事の話ししたりなんて感じで進んでいたのだが、

酒がだいぶ入ってからその男の人(Aさんってことにします)が私に言う。

「僕ね、○○さんに先越されちゃったんですよ」

○○さんとは北海道の有名人。

地元の舞台役者で深夜テレビで有名になって

東京進出して、役者として活躍し、紅白の司会までやった人。

別に名前を書いてもいいんだけど、まぁ、あの人だ。

Aさん曰く○○さんに先越されてしまったのだそうだ。

何を先越されたのか?

Aさん曰く自身と○○さんはキャラが似ている。

自分も○○さんのように、周りの人を笑わせながら盛り上げるキャラ。

もし自分が表舞台に出るならそういう役回りだなと思っていたら

先に○○さんが売れた。先を越されたから自分は売れなかったと。

まぁそういう人、世の中に何百人何千人といるかもしれない。

○○さんと会ったことも無いのに、自分が○○さんのように人気者になれたかも。

彼が先に売れたから、タイミングが悪かった。

だと。

ここまで読んだ人は、

あぁAさんは○○さんを妬んでるんだなってのはわかるでしょう。

そして夢を諦めたか、今でも芝居やお笑いをやっているかと。

○○さんになれたかもしれないと本人が思っているくらいだから、

売れているかはともかく1つや2つは武勇伝や自分だけの自慢キャリアがある、と思いますよね?

ところが話していくうちに衝撃の事実。

Aさんはサラリーマン(その時点で40歳くらいかな?)、

高卒で今の会社に勤め、ずっと働いている。

演劇をしたことも無ければ、お笑いもしたことがない、

学校祭なんかも含めても人前でマイクをもって話したことも無ければ

カラオケ以外でマイクを持ったことがない。

だって。

そんなAさんが言う。

「僕ね、○○さんに先越されちゃったんですよ」

今でもテレビで○○さんを見ると、

「ホントはあそこに自分がいたかもしれない」

って思うそうだ。

この飲み会。2時間。

自分も○○さんのように、周りの人を笑わせながら盛り上げるキャラ。

らしいAさんの話しで、一度も笑えなかった溝手はセンスのない人間なだけなのかもしれない。